日本の子どもの読解力が低下していると言われています。経済協力開発機構(OECD)が2016年に公表した国際学力テストの結果で日本の子どもの読解力が8位で、前回(2012年)の4位から大きく順位を落としていたことが問題視されています。
2020年から始まる大学の入試改革では、国語のみならず各教科で読解力が問われるような問題が出題されると予想されています。必然的に中学や高校入試でも、読解力が非常に重視されると言われています。
これからの時代、読解力がないと生き残れないと言っても過言ではないでしょう。そこで、読解力とは何か、そしてどうやって鍛えたらいいのか、実践問題を交えながらそのポイントを分かりやすく解説します!
CONTENTS:
1.読解力がある子とない子、その違いは?
2.そもそも「読解力」とは?
3.読解力を高める3つのチカラとは
4.語彙力の効果的な増やし方
5.要約は読解力を鍛える必須スキル
6.思考力を養う有効な方法!
7.【特別付録】やってみよう!読解力ミニミニチャレンジ!!
8. まとめ~入試は読解力で決まる!
1.読解力がある子とない子、その違いは?
読解力がある子どもとそうでない子は何が違うのでしょうか。長文読解を解いている子どもたちを見ていると、その道のプロならその姿勢ですぐに分かると言います。
読解力のない子どもは、長文の問題文を目では追っていますが、手はぶらんと下に下げたまま、姿勢もよくありません。一方、読解力のある子どもは、姿勢もいいですし、問題文を読みながら鉛筆を持ち、所々線を引いたり、丸をつけたり印をつけています。
読解力のない子どもは文字の「字ズラだけを追って読んでいる」のに対し、読解力のある子どもは「意味を理解しながら読んでいる」のです。この2つは何がどう違うのでしょうか。
2.そもそも「読解力」とは?
そもそも「読解力」とはどういうチカラのことでしょうか。
まずは、よくある国語の問題の定番をやってみましょう!
【次の文章を読んであとの問いに答えなさい】
「総太は早く帰りたいと思った。なぜなら今日は僕の誕生日で、従兄の進ちゃんが来るからだ」
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さて、ここで「総太はなぜ早く帰りたいと思ったのか書きなさい」という問いがあったとしたら、みなさんはどう感じますか?
①それは僕の誕生日だからに決まっている。
②簡単な問題だ。僕の誕生日で従兄の進ちゃんが来るからでしょう。
③従兄の進ちゃんが来るからだけど、進ちゃんってどんな子なのだろう。
もちろん、この問いに対する正解は「僕の誕生日で従兄の進ちゃんが来るから」ですが、どう感じたかというと、実は読解力のある子どもなら③を選んでいるでしょう。進ちゃんが来るから早く帰りたいという事実を読み取るだけでなく、どうして進ちゃんが来ると早く帰りたいと思うのか、進ちゃんはそれほど魅力的な人物なのか、それとも逆に怖いのか、そこまで想像することが本当の意味での読解力と言えます。
読解力とは「文章を正確に読み取る力ではなく、登場人物に共感し、どう感じることができるか」なのです。
3.読解力を高める3つのチカラとは
読解力を高めるには、次の3つのチカラを鍛える必要があります。
◆語彙力を増やす
◆要約力をつける
◆思考力を養う
そもそも分からない言葉だらけの文章を読んでも、幼児が大人の哲学書を読んでいるようなもので、読解どころか内容を理解するのも困難です。読解するのにまず「語彙力」がないと始まりません。
「要約力」は読解のトレーニングに最適なスキルです。いかに要点だけを抜き出し、コンパクトにまとめられるかは内容をきちんと読み解かないとできないからです。そして、いちばん大事なのが「思考力」、いわゆる「考える力」です。
それではこの3つのチカラを鍛える具体的な方法をみていきましょう。
4.語彙力の効果的な増やし方
語彙力を増やすには、本をたくさん読めばいいと思われるかもしれません。確かに読書量が多いにこしたことはないのですが、やみくもにただたくさん量を読めばいいというわけではありません。
野球を始めたばかりの子どもが自己流で間違った素振りを何百回繰り返しても、余計に変な癖がついてしまうだけで逆効果ということもあります。
読書もその年齢や好みに合わせた良質なものを無理なく読ませることが大切です。その時大人が絶対にやってはいけないのが、本人に適さない難解な文章を読んで感想文を書かせたり、要約を言わせたり、読書を勉強的に思わせてしまうことです。それは余計に読書嫌いにしてしまうのでやめましょう。
ただし、「この本面白かった?」「どんなところが面白かった(つまらなかった)の?」「へー、じゃあ私も読んでみようかな」というやり取りでしたら有効です。子どもも嬉しくなって内容をたくさん話すかもしれません。そしてまた次の本へと自然に手が伸び、いつの間にか読書好きになる可能性もあります。
また、親子の会話も重要です。親は子どもだからと思わずに、わざと難しい熟語や語彙を使って会話するのがたいへん効果的でおすすめです。親がふだんから多様な語彙を会話の中にふんだんにちりばめてあげることが何よりの贈り物です。
5.要約は読解力を鍛える必須スキル
要約とは、「与えられた文章を規定の字数内にまとめること」です。塾などでもトレーニングはしていると思いますが、問題集や過去問などでご家庭でもトレーニングすることは可能です。基本は次の「5W」を活用することです。
・「いつ(when)」
・「誰が(who)」
・「どこで(where)」
・「どうした(what happened)」
・「なぜ(why)」
上記の5Wをいかに字数内にうまくまとめられるかどうかがポイントです。つまり、長短かかわらず文章を読むときには、常にこの「いつ」「誰が」「どこで」「どうした」「なぜ」を考えながら読み進める訓練をすることが大切です。
その際には、必ず問題文に線を引いたり丸をつけたりするなど、印をつけながら読むようにしましょう。
6.思考力を養う有効な方法!
思考力とは、今回の教育改革でいちばん重点が置かれている、いわゆる「考える力」のことです。単に書いてあることだけをそのまま理解するのではなく、文章には書かれていない情報を自分の知識や経験から想像した上で全体像を理解します。
それを自分の頭の中だけでイメージするのではなく、周囲と意見をシェアしたり、議論したり、文章にするなどしてきちんと表現できることが、これから求められるチカラとされていいます。
それでは思考力はどうやって鍛えたらいいのでしょうか。文章でも何でも、読んだり見たりしたことをそのまま認識するのではなく、見えていないところまでを考える想像力を養うことです。それには常に「なぜ」「どうして」そうなったのか、「疑問を持つ癖」をつけ、「自分だったらどうするか」「どう思うか」を考えることです。
それには親も協力して、ふだんから本やテレビなどの内容で「これなんでこうなったのだろうね」「どう思う?」と聞くなど、常に「なぜ」「どうして」「どう思う」を意識しながら楽しく会話をすることが有効です。
7.【特別付録】やってみよう!読解力ミニミニチャレンジ!!
それではここまで述べてきたことをおさらいして、次の文章を読んでください。
みなさんはこの文章を読んで何を感じましたか?
次のなかに、作者が本当に言いたいことが1つだけあるとしたらどれだと思いますか?
①ノゾミの短冊は赤、サキがピンク、ハルナは水色の短冊だった
②ノゾミも水色が良かった
③ノゾミは本当の願い事なんて書きたくない
④ノゾミはみんなに完走して欲しいと願っている
⑤ノゾミはハルナには完走して欲しくないと思っている
【正解と解説】
みなさん、分かりましたか?
正解は⑤です。
確かに、ノゾミがハルナに完走して欲しくないなどとはこの本文中に一言も書かれていません。一方、①~③までは本文を読めば誰でも分かることです。しかし、著者が本当に言いたいところはそこではありません。④は「本当の願い事なんて書けるわけがない」と言っているので、明らかに違います。もし④を選んだとしたら、すぐにでも読解力を強化した方がいいでしょう。
この文章で本当に大事なところは、「私」がハルナの水色を羨ましく感じたこと(決して水色の色そのものに固執したわけではない)であり、その後に続く「私(ノゾミ)」の心の葛藤です。それでは、具体的に5Wを使って読解していきましょう。
「いつ」⇒7月初旬くらい(「短冊」「願い事」という言葉から、七夕近くであることが想像できます)。
「どこで」⇒教室(「先生が」「クラス全員に)と言っているので、恐らく学校か塾などの教室であることがイメージできます)。
「誰が」⇒ノゾミ(主人公「私」がノゾミだということは最後の一文で分かります)
「どうした」⇒短冊に自分の思いとは違う「みんな完走しますように」と書いた。
「なぜ」⇒常にハルナのことを羨ましく思っているが、そのことは表に出せないから(本文中に「いつだってハルナは運がいい。なぜ私はハルナになれないのだろう」と表現されていることから、常にノゾミはハルナを羨ましく思っていることが分かります)。
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つまり、繋げるとこうなります。
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七夕間近、教室で、ノゾミが短冊に自分の思いとは違う「みんな完走しますように」と書いた。なぜなら、常にハルナのことを羨ましく思っているが、そのことは表に出せないから。
ここまで読み解けると、次のように主人公の「気持ち」を推察することができます。
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恐らくノゾミはハルナには何をやってもかなわないのではないでしょうか。友達ではありますが常に羨ましく妬ましく感じていて、次のマラソン大会か何かで「ハルナが完走できなければいいのに」「これだけは私が勝ちたい」というような思いを抱いていると想像できます。当然そのようなことはみなの目に触れる七夕の短冊に書くことはできないので「みんな完走しますように」と自分の気持ちとは逆のことを書くしかなかった。
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そんな主人公の複雑な「心の揺れ」のようなものが読み取れたでしょうか。
上記の推察部分はあくまで読み手の推測に過ぎず、本文中には明確に書かれていません。しかし、先述したように「読解力とは文章を正確に読み取る力ではなく、登場人物に共感し、どう感じることができたか」なのです。
実際の入試問題はこれよりずっと難解で長文となります。それを読み解くのですから、やは適切な訓練(トレーニング)が必要です。
8.まとめ~入試は読解力で決まる!
今回の入試改革で、入試問題も大きく変わろうとしています。教科のボーダーレス化が進み、国語や社会でもグラフや資料からデータを読み取ったり、逆に数学(算数)や理科の問題がまるで国語の文章問題のように長文化していたり、科目の垣根を越えてその境界がなくなりつつあります。
つまり、読解力はこれまで以上に必要になり、国語や社会はもちろん、数学や理科の知識があっても読解力がないと解けないという時代にきています。要は「これからの入試は読解力で決まる!」と言っても過言ではないのです。
これまで、国語は特に勉強しなくてもいいと考えてきた方も多かったと思います。しかしながら、例えば前述「7」の「ミニミニチャレンジ」でもそうでしたが、問いが「1つだけ」と言われているのに、答えの②「ノゾミも水色が良かった」を読んだ段階で、「あ、これだ」と解答に丸をしてしまい、ろくにその後の文を読みもせず次の問題に移ってしまう子どもが少なくありません。こうした問題文を読み解く力さえない子どもが増えていると言われています。まずは悪い癖を発見して、直す訓練をしていかなければいけません。
このような個々人の「読み方の欠点」というのは、自分ではなかなか見つけられませんし分かりません。受験のプロでないと、何をどう直したらいいのか気づかないことも多いと思います。実際にプロの先生のアドバイスでぐんと読解力がアップするということも多々あります。読解力に不安を感じたら、ぜひ一度プロにみてもらうことをおすすめします。