前回は、食と心の関係についてご紹介すると共に、心を作る上で重要でありながら日本人では不足しがちな栄養素についてお話ししました。
受験勉強においても、いつも100%勉強のことだけを考え、集中して取り組むことは非常に難しいです。
毎日いろいろな刺激を受け、様々な感情を抱いて、良いときもあれば悪いときもあるのが普通です。
しかし、心の浮き沈みが激しかったり、折れていたりする状態で勉強をしても集中できないことは皆さん経験があると思います。
試験の本番当日だけでなく、普段の心の状態が受験成功への大きな鍵を握っています。
そこで今回はさらに詳しく食と心の関係を見ていき、今一度食生活を振り返っていただきたいと思います。
【食事による心(脳内物質)のバランスの乱れ】
現代の日本において、うつなどの精神疾患を患う人の数は数十年前と比較しても明らかに増加傾向にあります。
これは、社会や環境の変化、診断機会の増加だけではなく、毎日の食事も大きく影響しています。
体と同様、心も食べた物によってできています。
心の状態に密接に関わり影響を与えると言われているのが、脳から分泌されるホルモン様物質や神経伝達物質などですが、この材料や代謝に必要な栄養素が不足すると心のバランスも崩れやすくなります。
では、どのような食事や栄養素が重要なのでしょうか。
【脂質の重要性と働き】
心の状態と密接に関係する脳内物質を作る元となるのが、たんぱく質に多く含まれるアミノ酸です。
そのアミノ酸から作られた物質を細胞へ届けるためには、脂質から作られた細胞膜の機能が重要になってきます。
それだけではなく脂質は、脳神経細胞の構成材料となり、正常な神経機能を維持するためにも働きます。
脂質と聞くと、「体内では脂肪になるのでは?」「沢山摂るのは体には良くない」といったイメージを持つ方も多いと思います。
しかし、脂質は優れたエネルギー源であり、身体の細胞、酵素、ホルモン、脂溶性ビタミンなどの材料となる非常に重要な栄養素です。
<脂質の働き>
①エネルギー源
脂肪1gあたり9kcalのエネルギーを発生させることが出来る、効率の良いエネルギー源。
②細胞の材料
細胞膜や脳神経細胞などの構成材料となる。
③貯蔵脂肪
体内で貯蔵される脂肪(皮下脂肪)は体温を保つと同時に、クッションの役割を果たし体外の刺激などから臓器を保護する。
④脂溶性ビタミンの吸収
脂溶性ビタミン(ビタミンA、D、E、K)は脂質の存在下で、体内での吸収が促進される。
また、脳は60%が脂質でできており、他の臓器と比べて明らかに脂質の割合が高い特徴があります。
そして、脳を構成する脂質のうち多くはコレステロールとDHA(n-3系 多価不飽和脂肪酸)です。
コレステロールは十分なカロリー摂取により体内で合成されますが、DHAについては食材などから摂取しなければなりません。
脳の機能や働きを正常に保つことは、脳内物質のバランスにも大きく寄与し、心の状態へと繋がります。
<DHAについて>
・魚の脂に多く含まれる
・αリノレン酸(亜麻仁油、エゴマ油 など)からも体内で少量合成される
<レシピ>
〜おばんざい風鯛のごま和え〜
【材料】(3~4人分)
・鯛(刺身用)……100g
・ひじき(乾燥)……2g
・木綿豆腐……50g
・うす揚げ……1/2枚
・絹さや……10枚
・赤玉ねぎ……1/8個
(無ければ普通の玉ねぎ)
・干しぶどう……5g
▼▼▼ A ▼▼▼
・練りごま……大さじ1と1/2
・酢……大さじ1/2
・しょうゆ……大さじ1
・砂糖……小さじ1/2
▲▲▲ A ▲▲▲
・塩……少々
【作り方】
① 乾燥ひじきは水に浸して戻し、しっかりと水気をきっておく。うす揚げは、熱湯をかけて油抜きをして短冊切りにし、絹さやは筋をとって沸騰したお湯(塩をひとつまみ加える)でさっと茹で、斜めに千切りにする。玉ねぎは、薄くスライスして水にさらし辛味が抜けたらキッチンペーパーなどで軽く絞り、しっかり水気をとる。木綿豆腐はキッチンペーパーなどで水気を軽く絞っておく。
② 鯛はそぎ切りした後(刺身用に切ってある場合は省略)、短冊状(細長くなるよう)に切る。
③ 干しぶどうをみじん切りにして、ボウルにAの調味料を混ぜ合わせる。
④ そこに、木綿豆腐をちぎりながら入れ、ひじき、うす揚げ、絹さや、玉ねぎ、鯛も加えてよく混ぜ合わせ、塩で味を調えたら出来上がり。
鯛は青背魚ではありませんが、DHAを豊富に含んでおり、消化吸収も良い優れた食材です。
お刺身で食べるのも良いですが、今回はお豆腐や薄揚げ、絹さやなどの野菜を加えさらに、美味しく栄養バランスの整う一品にしました。
隠し味に干しぶどうを加えたことで、コクのある甘みと程よい酸味が加わりさらに食材の味が引き立ちます。
それぞれの下処理をきっちりすることで、お店のような美味しく上品な味になりますので、ぜひ一度作ってみてください。
【タンパク質とアミノ酸】
タンパク質は、体内で消化・吸収され多くのアミノ酸に分解されます。
そのため、脳内物質の材料としても重要で毎食十分な量を食べることが必要です。
私たちの体を構成するタンパク質は20種類のアミノ酸によって作られています。
そのうちの9種類のアミノ酸は体内で合成されないため、食物などによって摂取しなければならず特に重要なものとして「必須アミノ酸」と呼ばれています。
<アミノ酸スコア>
食物によって含まれているアミノ酸は様々ですが、その食物が含んでいる必須アミノ酸の種類や含有率は「アミノ酸スコア」というもので知ることができます。
このアミノ酸スコアが高ければ高いほど(値が100に近いほど)、必須アミノ酸をバランスよく含んだ食品となり、脳内物質や細胞の材料として優れているといえます。
*アミノ酸スコアが高い食物はタンパク源として優れていますが、アミノ酸スコアが低い食物についてもビタミンやミネラル、食物繊維などその他の重要な栄養素を含んでいるため、食事全体ではバランスよく摂取することが重要です。
【糖質過多の食事に注意】
お菓子やジュースなどの甘いものや糖質を日常的に沢山摂取することによっても、集中力の低下ややる気の低下、イライラ、不安感といった状態を招きやすくなります。
甘いお菓子や糖質は食べると、血糖値を急激に上昇させ、その後急激に血糖値が下がります。
この急激に血糖値が下がり低血糖状態になると、体は生命の危機を感じて各種ホルモンや神経伝達物質を大量に分泌します。
それにより、疲労感や眠気、精神的な不安定など様々な症状が引き起こされてくるのです。
これらを防ぐためにも、砂糖や糖質の過剰摂取は控えると共に、血糖値の上昇を緩やかにする働きのある食物繊維の摂取を意識しましょう。
<レシピ>
〜とろとろネギ出汁の牛しゃぶ〜
【材料】(2人分)
・薄切り牛肉……200g
(しゃぶしゃぶorすき焼き用を使用)
・長ネギ……1本
・にら……1/2束(50g)
・水……180ml
▼▼▼ A ▼▼▼
・顆粒だし……小さじ1
・しょうゆ……小さじ1
▲▲▲ A ▲▲▲
・卵黄……2個
【作り方】
① 長ネギは3〜4cm幅に切り、にらは5等分に切る。
② 鍋(浅いものやフライパンでも可)に水とネギを入れてフタをして、ネギがクタクタになるまで弱~中火で煮る。
③ 別の鍋にお湯を沸騰させて、にらをさっと茹でザルなどにあげてよく水気をきっておく。
④ 牛肉も沸騰したお湯にサッとくぐらせ色が変わったら、ザルにあげておく。
⑤ 長ネギによく火が通り柔らかくなったらザルにあげ、残ったお湯60~70ml(足りない場合は水を足してください)に、Aの調味料を入れてよく混ぜ合わせる。
⑥ 器に牛肉、長ネギ、にらを盛り付け中央に卵黄をおき、最後に⑤のお出汁をかけたら出来上がり。
*食べる際はよく混ぜ合わせて、お好みでごま油や、七味唐辛子をかけても美味しく召し上がれます。
牛肉は、良質のたんぱく質 (アミノ酸スコア100)を多く含んでいるだけでなく、鉄や亜鉛、ビタミンBなど心(脳内物質)を作る上で欠かせない栄養素も豊富に含んでいます。
また、にらやネギに含まれるアリシンは抗菌殺菌作用や疲労回復効果も期待できるため免疫力をあげてくれる食材です。
旨味と甘みたっぷりのネギのお出汁を生かした、冬にぴったりな牛肉料理をご家庭で作ってみてください。