当セミナーの看板教師として小学生・中学生を中心に全教科オールマイティに指導していただいている森下亜美先生に、プロだからできる指導のコツをお聞きしました。
- プロ教師とそうでない教師の一番の違いは何でしょうか。
英語専門、数学専門で教えていらっしゃる先生も多数在籍されていますが、私に関して言えば、全教科に責任を持って、受験すべてをサポートできることです。
中学受験を目指すご家庭ならふつうは塾へ通わせることが多いんですが、中には家庭教師だけで受験に臨まれるご家庭もあります。入塾テストに落ちてしまって進学塾に行けなかった、それでも家庭教師を頼って何とか受験に臨みたいという生徒もいます。そんなご家庭に伺って、右も左もわからない状態から一緒に学習計画を立て、基礎からしっかり指導できるのがプロの強みだと考えています。
他の家庭教師派遣センターで指導した経験もありますが、やはり学生のアルバイトや副業の先生が中心です。アルバイト教師では、まず週に何回も通うこと自体が難しいです。その上、全教科の習熟度、得意分野・苦手分野、好き嫌いなどを細かく把握しなければなりません。中学受験生なら、生徒とのコミュニケーションと同じかそれ以上にご家庭との信頼関係も大切になってきます。今どこまで進んでいて課題は何か、どんな不安を抱えているのかなど、共有すべきことが次から次へと出てきます。入試直前だと、毎日通うことも少なくありません。
全教科を教えるということは、ご家庭とひとつになって受験に臨むことなのです。とても副業でできることではないと私は思っています。
- 特に小学生のお子さんを教えるときに工夫されていることはありますか。
まず、生徒の気持ちを傷つけずに間違った勉強法を修正することです。
私がこれまで受け持った生徒に多かったのは、小学4年生まで成績が良かったのに5年生でつまずいてしまったというタイプです。たとえば算数ですが、4年生までは、計算力があれば書いたり工夫したりしなくても大丈夫なんです。ところが、5年生になると受験特有の算数といいますか、文章問題が複雑になったり、図形に補助線を入れて考えなければならないとか、手を動かして考える学習が必要になってきます。計算だけでは対応できなくなるんですね。
それなのに、小4まで何も書かずにできることや桁の多い計算を暗算でできることに誇りを持ってきた生徒は、「とりあえず書いてごらん」と言ってもなかなか書こうとしてくれません。集団授業でも、「こんなの、書かなくてもできるもん」という気持ちが強くて素直に聞けないんです。それが積み重なって、わからなくなってしまう。必要な手間を惜しんで、手を動かせないまま、5年生の中盤ぐらいから成績が落ちてしまうんです。
そういうお子さんにはプライドを傷つけないよう、長所をほめながら、手を動かす癖をつけさせるようにしています。計算が得意なのはいいことですから、そこはほめて、手を動かすことも覚えてもらう。与えられた数字を図形の中に書き込むとか、線分図で表してみるとか、手を動かしながら考えるということがこれからは必要な作業なんだと理解してもらうんです。
- 小さい子の場合、本当にわかったかどうか確認するのが難しいんじゃないでしょうか。
さっきの算数の例でもそうなんですが、自分はこれが得意なんだと自信を持っていることがかえって学習の妨げになってしまうことは少なくないです。
教育界でよく知られている「ラーニングピラミッド」というのがあるんですが、学習の定着率は聞いて10%、見て15%、話し合って40%、やってみて80%、ほかの人に教えてやっと90%だと言われています。
塾で先生の説明を聞いて、問題も見て、分かったつもりになっている。けれども、やろうと思ったらできない。1度やったのに、もう一度やろうとするとできない。どうしてだろう、と本人も親御さんも頭を抱えてしまいますが、あたりまえなんです。定着率が低い勉強法をしてるのですから。
ですから、私は一通り教えて「わかった」と返事をした生徒には、「じゃ、私に教えてみて」と言うんです。先生ごっこをしてもらうんですね。とても時間はかかるんですが、私が何回も説明するより、一回でも生徒に説明させるほうが定着率は高いです。間違ったところを私が指摘してあげてもいいし、何よりいいのは、実際に他人に説明しようとしてみると、実はちゃんと理解できてない部分があることに生徒自身で気付くことができる点です。
「百聞は一見にしかず」という言葉がありますよね。これには続きがあって、「百見は一考にしかず、百考は一行にしかず、百行は一果にしかず」と続きます。「考」は考える、「行」は行動、「果」は結果です。実際、生徒の学習の定着率を見ていると、本当にその通りだと思います。"先生ごっこ"は、生徒も喜んで取り組んでくれるので、特に手応えを感じながら取り入れている学習法のひとつです。
- 最後になりますが、家庭教師をやっていていちばんやりがいを感じるのはどんなときですか。
やっぱり合格の連絡をもらったときですね。
中学受験生の場合、小さい頃から何年も指導するので、受験を迎える頃にはもう自分の子どもみたいにかわいく感じています。私は感情移入しやすいほうで、受験直前ともなると「こんなかわいい子に悲しい思いをさせられない!」と思って必死で教えます。
この時期は、生徒本人だけじゃなくて、ご家族全体が普通ではない緊張感に包まれてきます。特にお母様はご自分のこと以上に一生懸命になって、わが子の合格のためにできることならなんでもしようとなさいます。受験前にお百度を踏まれたお母様もいらっしゃいました。中には取り乱される方もいらっしゃいます。
そうしたご家族の情熱というか決意というか、ずっと一緒にいて見てきていますから、見事第一志望に合格されて泣きながら電話をかけてこられた瞬間はなんとも言えません。一番うれしい瞬間ですね。
何度やってもやめられません(笑)
- ご家庭との深い絆が感じられるエピソードですね。これからも熱い指導に期待しています。ありがとうございました。